プレイステーション5(以下、PS5)の普及が加速する中、つぎなる戦略は? ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)の今後の展望を、社長兼CEOのジム・ライアン氏に訊いた。

聞き手:三代川 正(ファミ通.com編集長)

ジム・ライアン氏

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)社長兼CEO。ヨーロッパやオセアニアなど世界各地でプレイステーションを展開する組織作りに尽力した後、2019年4月より社長兼CEOとしてSIEの舵取りを担う。

2022年度はPS5のサプライチェーンが大幅に改善

――最初に2022年度のPS5ハードウェア事業についてお訊きします。成果・実績について、どのように評価されていますか?

ライアン多くのハードウェア関連の企業が苦しんだと思いますが、私たちもコロナ禍において、サプライチェーン(編集部注:製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れのこと)の問題に苦しみました。2022年度は、このサプライチェーン問題に対処していた1年だったと言っても過言ではありません。

 そしてPS5のハードウェアを、とくに日本、そしてそのほかの国にも供給していくことに、一生懸命に取り組んだ1年でした。いまはPS5の時代になりましたが、これまでのPSハードの時代と比べても、PS5の出だしは過去最高のものでした。多くのゲームファンの期待に応えるためにも、このサプライチェーン問題に対処するというのが、これまで以上に大切だったんです。

――現在はPS5が安定供給されていて、日本でもふつうに購入できるようになりましたね。

ライアンご指摘の通り、2022年の下期に入ってから、ようやくPS5を大量生産できるようになりました。そして現在までに、日本でもかなりの数を供給できています。結果的に2022年度の第4四半期は、私たちSIE史上で、最大・最多数のコンソールを販売することができました。

 日本でPS5をなかなか供給できない中で、ゲームファンの皆様におかれましては、PS5の供給を本当に忍耐強く、辛抱強くお待ちいただき、心から感謝しています。熱心に待ってくれた皆様に対して、PS5を供給できたことは非常に重要なことであり、実現できてとても幸せに思います。

SIEジム・ライアン氏インタビュー

日本市場をターゲットに今後も親和性の高い作品を展開

――日本でもPS5の供給が進み、ユーザーが急速に増加している状況ですが、PS5の世界戦略において、日本市場はどのくらいのウェイトを占めているのでしょうか?

ライアン日本市場はこれまでもこれからも、非常に重要な市場のひとつです。その理由は、日本市場が世界で第2位の市場規模を誇るということはもちろんなのですが、単純な統計的な話よりも大事なのは、日本がPSの誕生の地であるということです。そして日本には多くの従業員がいて、彼らの活躍によってSIEが成り立っているのだということも、日本市場を重要視している大きなポイントです。

 また、PSのカルチャーにとって日本は不可欠な存在であり、中心的な国のひとつでもありますから、PSというブランドの中で、日本で発信ができることは非常に特別で、かつ重要なことだと考えているのです。

――なるほど。

ライアンなぜ日本市場がこれほどまでに重要なのか、もうひとつ理由があります。それは有名なタイトルの多くが日本生まれであるからです。私たちのプラットフォームで30年近く輝き続けているタイトルが、数多くあります。

 『ファイナルファンタジー』、『モンスターハンター』、『鉄拳』など、例を挙げるときりがありませんが、数々の名作を日本のデベロッパーが開発し、パブリッシャーがリリースしてくれました。SIEとデベロッパーやパブリッシャーの皆さんとの関係も、長らく続いてきた歴史がありますので、そういった意味でも、日本市場は非常に重要です。

SIEジム・ライアン氏インタビュー
ファイナルファンタジーXVI

――今後、PS5をさらに多くのユーザーに手に取ってもらうためには、何が必要だとお考えですか?

ライアンやはり優れたタイトル、魅力的なゲームがあるからこそ、PS5を選んでいただけると思っています。これは日本だけではなく、ほかの地域でも当てはまります。

――その戦略の中で、日本向けにとくに注力していくことはありますか?

ライアン日本市場と親和性の高いゲームを送り出すことです。すでに『ELDEN RING』、『バイオハザード RE:4』、『モンスターハンターライズ』、『WILD HEARTS』などがPS5でリリースされていますが、これらのタイトルは日本のパブリッシャーやデベロッパーとの関係があったからこそ、日本で生まれて、日本でリリースできたゲームです。

 日本でヒット作が生まれることは非常に励みになりますし、これらのタイトルだけに留まらず、今後も数多くのタイトルが発売予定であることは、とてもありがたいことです。直近では、『ファイナルファンタジーXVI』、『ストリートファイター6』の発売を控えていて、どちらも世界中に向けて巨大で重要なローンチになりますが、日本のゲームファンにとってはとくに親和性の高い、特別なローンチになると思います。

 また、海外で生まれたタイトルでも、『ホグワーツ・レガシー』のように、日本のゲームファンにとても楽しんでいただけるタイトルが数多くあります。『ホグワーツ・レガシー』はプレイされましたか?

――はい、もちろん! 正直なところ、こんなに日本でヒットするとは思いませんでした。

ライアン私の娘も大好きなんですよ。夢中になって『ホグワーツ・レガシー』ばかりやっているので、私は「勉強もしなさい!」と言い聞かせているのですが……魔法の勉強だけではなく、現実にも学ぶべき科目はあるんだよ、と(笑)。

SIEジム・ライアン氏インタビュー
SIEジム・ライアン氏インタビュー
ホグワーツ・レガシー

ゲームを大きく成功させるためにはパートナーとの協力関係が必要不可欠

――PlayStation Studiosからは、2023年度には『Marvel's Spider-Man 2』の発売が予定されています。本作に対する思いをお聞かせください。

ライアン『Marvel's Spider-Man 2』は、ものすごくエキサイティングなローンチになると確信しています。というのも、PS4でリリースされた『Marvel's Spider-Man』が試金石になっているからです。このタイトルはPS4で大成功を収めて、何百万人ものユーザーに楽しんでいただきました。

 その続編となる『Marvel's Spider-Man 2』はPS5専用で開発しているので、デベロッパーには一切の妥協がありません。PS5の機能を最大限に生かし、最高の作品を作り上げることに集中してもらっています。その結果、ゲームファンからは、本当に美しい映像、すばらしい体験を楽しめそうだとフィードバックをいただいています。

――発売されるのが楽しみです。ちなみに、今後の日本市場においてPlayStationプラットフォーム向けにリリース、もしくは発表されるタイトルでは、どのようなものが期待できますか?

ライアンPlayStation Studiosだけではなく、サードパーティーがパブリッシュしてくれるタイトルもすばらしいものが控えています。先ほど述べた『ファイナルファンタジーXVI』はPS5専用で発売予定で、このタイトルももちろん目玉となりますし、セカンドパーティーが開発し、私たちがパブリッシュする『Stellar Blade』についてもわくわくしています。それから4月19日には、『Horizon Forbidden West』の有料ダウンロードコンテンツ『Horizon Forbidden West 焦熱の海辺』をリリースしました。『Horizon』も多くのファンに愛される評価の高いシリーズになっています。

 これらのほかにも、コーエーテクモゲームスさんの『Rise of the Ronin』や、コジマプロダクションさんの『デス・ストランディング2』も、PS5の目玉タイトルになるでしょう。ゲームを大きく成功させるためには、パートナーとの協力関係が必要不可欠です。『Rise of the Ronin』を例に出すと、コーエーテクモゲームスさんがデベロッパーとして開発を進めていて、私たちSIEが非常に強靭なマーケティングパワーと、流通網を活用してパブリッシュしていきます。この合わせ技が、ゲームをヒットさせる秘訣です。

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Marvel's Spider-Man 2

――PlayStation Studiosが手掛けるAAAタイトルは、世界で1000万~2000万本を超えるセールスを記録していますが、日本でのセールスは比較的小さな規模にとどまることも多くあります。日本におけるソフトの状況について、率直なお考えをお聞かせください。

ライアン日本だけではなく、すべての市場にはそれぞれ特徴があります。だからこそ、同じタイトルでも売れる市場とそうでない市場との差が生まれるのです。むしろ同じタイトルがどの地域でもヒットしたら、おもしろくないじゃないですか。ゲームの販売を行う地域ごとに特徴や特性があるからこそ、ビジネスは退屈せずエキサイティングなのだと考えています。

――過去には欧米でのみ発売され、日本では発売されないといったタイトルもありました。それは大きいセールスが期待できないから、という理由もあったと思うのですが、売上規模が大きくない場所でも、リリースを継続する意図をお聞きできますか?

ライアンそれは、やはり日本市場が重要だからです。日本には経験豊富なゲームファンが多くいますし、多くのゲームクリエイターがいます。他地域に比べて決して大ヒットにつながらない可能性はあるかもしれませんが、日本のコミュニティーに届けることはとても重要で、それはやはり単純な統計データよりも大事なものなのです。

各地域の特性を見極めながらグローバル化を進めていく

――日本の市場はどのように変化しているとお考えですか?

ライアン日本のゲームファンは、昔と比べてずいぶん変わったと思います。以前は日本のメーカーのタイトルが人気でしたが、最近は海外のメーカーのタイトルもオープンな気持ちで楽しんでくれていますよね。たとえば『Ghost of Tsushima』は、日本での累計実売本数が100万本を突破しました(※)。日本で海外のメーカーのタイトルが、いかに人気があるのかを証明してくれたと思います。

※『Ghost of Tsushima』および『Ghost of Tsushima Director's Cut』の日本国内での合計実売本数。

――『Ghost of Tsushima』は100万本を突破したんですね。

ライアンはい。ここが初出の情報になります。

――なんと。日本にもファンの多いゲームですので、喜ぶユーザーも多いと思います。

ライアン先ほど日本市場の重要性について回答しましたが、こういった事例からも、やはり日本市場は大切だと思いますし、興味深くて魅力的なマーケットですね。日本の特徴のひとつにゲーム文化の歴史と過去から受け継がれてきた資産があると思います。これらがあるからこそ、すばらしいタイトルがどんどん生まれているのではないでしょうか。

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Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)

――2022年には日本のPlayStationのブランドキャンペーンとして米津玄師さんを起用した施策がありましたが、今後日本のユーザーに向けてどのような戦略をお考えですか?

ライアン私たちは、ここ2、3年にわたって、よりグローバルなビジネス展開をするために、さまざまな取り組みを積極的に行ってきました。グローバル化すると、各地における特徴が薄まってしまうのではないかと懸念される方がいるかもしれませんが、決してそうではありません。たとえば海外のインフルエンサーを起用したキャンペーンなどは、海外で成功していたとしても、それをそのまま日本にもってきても効果的ではないことは、私たちも重々承知しています。

 ですから各市場に対して、ユーザーの皆さんにとってもっとも関心の高いものを提供する、あるいはその国の文化にもっとも魅力的に映るものを出すということについては、これからも続けていきますのでご安心ください。日本のブランドキャンペーンに米津玄師さんを起用したように、今後もグローバル化を進めながらも、日本の文化的に馴染み深いものを提供していきたいと思いますし、日本におけるPSのコミュニティーの皆さんにとにかく楽しんでいただけるローカルコンテンツを出し続けていきます。

――グローバル化を進めながらも、各地域の特色にあった展開も大事にしていく必要があるというのは、ここ数年でわかったことなのでしょうか。それとももっと前から認識されていたことなのでしょうか?

ライアンこの質問にイエスかノーかではっきりと答えることはできませんが、ゲームを取り巻く環境が変わっていく中で、徐々に気づいていったのだと思います。とくに意識が高まったのは、2013年にPS4をリリースしたあたりでしょうか。今後はグローバル化を進める必要があるとはっきり意識して、会社の組織体制もグローバル化を進めてきました。

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ファンが長期で楽しめるようにPS VR2は引き続き猛プッシュ

――2月22日にプレイステーションVR2(以下、PS VR2)が発売されました。ゲームファンの反響や、ハード・ソフトの普及状況などをどのように分析されていますか?

ライアンPS VR2は、PS VRに比べてありとあらゆる機能を改善していて、性能や機能が大幅にパワーアップしています。とてもうれしいことに、多くのゲームファンに愛されています。デベロッパーの皆さんも、私たちが開発したPS VR2の機能を最大限生かすタイトルを開発してくれています。あなたはPS VR2を体験してくださいましたか?

――はい。『グランツーリスモ7』をプレイしましたが、ものすごくリアルで驚きました。

ライアン『グランツーリスモ7』はすばらしいですよね。PS VR2では、ほかにも『Horizon Call of the Mountain』など多くの優れたタイトルがあり、今後『バイオハザード RE:4』、『Beat Saber』なども楽しめるようになる予定です。

――PS VR2のハードの普及状況については、どのようにお考えですか?

ライアンPS VR2はローンチして間もないので、普及状況を判定するのは少し早いかもしれませんが、ユーザーやメディアの皆さんから多くのポジティブな反応をいただいていることをうれしく思っています 。先ほど対応タイトルをいくつか挙げましたが、PS VR2のローンチ周辺タイトルとして40本以上がリリースされました。さらに2023年度以降も、非常に多くのタイトルが控えています。PS VR2を購入してくれた方が長期間にわたって楽しめるように、かつ私たちも利益が確保できるように、これからも引き続きプッシュしていきます。

――ちなみに、PS VR2でライアンさんイチオシのタイトルは?

ライアンたくさんありますが、今後発売が予定されているリズムアクションゲームの『Beat Saber』ですね!

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グランツーリスモ7

さまざまなエンターテイメントをより多くの人に楽しんでもらう施策

――2022年度には映画『アンチャーテッド』やドラマ『THE LAST OF US』が公開され、とくに『THE LAST OF US』は非常に大きな成功を収めています。IP(知的財産)の多角展開のこれまでの成果と今後の展開について、お考えをお聞かせください。

ライアンこの質問はとても重要です。ここ25年間、私たちPlayStation Studiosが作ってきたタイトルは、PSでしか遊ぶことができませんでした。しかし、私たちが手掛けるエンターテインメントはゲームだけではありません。音楽、映画、ドラマなどいろいろありますが、私たちはどのカテゴリーに展開しても最高品質のコンテンツを持っていると自負しています。

 私たちは、こういったさまざまなエンターテイメントのカテゴリーに長期にわたって投資を行ってきました。これらのエンターテイメントをもっと多くの人たちに楽しんでもらいたい。そういった思いから、ゲーム機を超えた戦略の広がりがどんどん加速しています。『The Last of Us』の展開もその戦略の一環です。本作はPS5でリメイクし、PC版をリリースし、そしてドラマを制作しました。

――ドラマがヒットしたことは、『The Last of Us』リメイク作のセールスに影響を及ぼしていたりもするのでしょうか?

ライアンはい。じつは私達には、すべてのネットワークにおいてセールスをトラッキングする仕組みがあり、セールスの推移を正確に見ることができます。『The Last of Us』に関しては、ドラマで新しいエピソードを公開するたびに、ゲームの販売本数が増えました。これは非常にすばらしいことだと思います。

 ゲームであろうがドラマであろうが、『The Last of Us』を何らかのエンターテイメントとしてより多くの人たちに楽しんでもらえるのは、うれしいことなので。ドラマを制作した相乗効果は、“2+2=5”という感じですね。

SIEジム・ライアン氏インタビュー
ドラマ『THE LAST OF US』

――なるほど。そうなると、今後PlayStation Studiosでは、多角展開できる、ストーリー性の豊かなソフトの開発が軸になっていくのでしょうか?

ライアンPlayStation Studiosとしては、今後もPSのための開発であることが中心であり続けます。ただし適切と判断したときは、ゲーム機の垣根を越えて拡大していけるようなゲームも手掛けると思います。

 魅力的なIPをどこに拡大しようかと考えたときに、PCでリリースすることについては、移植すればいいので答えが出やすいですよね。さらに、では映画はどうだろう、ドラマはどうだろう、といった選択肢が選べるのは魅力的ですし、選べる機会がますます増えてきたのは、とてもうれしいことですね。

――直近で多角展開を行う予定のタイトルがあれば教えてください。

ライアンPSでしばらくご無沙汰していたシューティングゲームの『Twisted Metal』は、これから多角展開を行っていく予定です。そのほかにも今後はさまざまな映画を出していきますが、とくに『Twisted Metal』についてはゲーム以外のエンターテインメントとしてどのように生まれ変わるのか。おもしろいコンテンツになるのではないかと私も楽しみにしています。

――それは楽しみですね。最後にゲーミングPC市場についての質問です。近年では、日本でもゲーミングPC市場が大きくなってきています。SIEの立場で考えると、PS5のライバルが増えるわけですが、ゲーミングPC市場の日本での盛り上がりついて、率直なお考えをお聞かせください。

ライアンとてもいいことだと思っています。ゲームのIPを多角的に展開していくことを考えたときに、より多くの方たちにさまざまな形でゲームを楽しんでいただくためには、PCは欠かせないものですし、ハードの選択肢は多いほうがいいと思うので。

――SIEとしては、今後もPC版のリリースを積極的に行っていくと。

ライアンはい、積極的に行っていきます。

――選択肢が増えるのはうれしい反面、熱心なゲームファンからすると、PS5専用のタイトルが増えてほしいとも思いますが……。

ライアン私たちもPS5の専用タイトルの重要性を十分理解しています。先ほどもお話しした通り、PlayStation Studiosの主務は最新のPSを使ってゲーム体験を楽しんでもらうことですから。PS5専用のタイトルを増やし、PC版をリリースする時期はずらすようにしています。
 ゲームファンのご意見をうかがう機会が頻繁にあるのですが、そのときにタイムラグについて質問すると、PS版のリリースから2、3年遅れてPC版を販売することは、好意的に受け止めてくれる方が多いです。

――ゲームファンの意見をヒアリングするような機会を定期的に設けているんですね?

ライアン我々がいちばん大事にすべきコミュニティーですから。今後もゲームファンの声に耳を傾けつつ、さまざまなタイトルを多角的に展開していきたいと思います。

SIEジム・ライアン氏インタビュー
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